VOICE #024

楽器の値段が最近高騰しているけれど、なぜだろう?
みんなの反応
ISSUE & HINT
サステナビリティを、一過性で終わらせない
アコースティックギターのように、天然木材を使った楽器の値段が数年前と比べて上がっている。価格高騰の背景には、どういった要因があるのか。限りある資源を次の世代に残すため、自然保護活動に積極的に取り組むアメリカのギターメーカー、Taylor Guitarsが大事にしていることを、プロダクト・スペシャリストの虎岩正樹さんに伺った。

ISSUE & HINTを教えてくれた人

虎岩 正樹さん
テイラー・プロダクト・スペシャリスト。22歳で渡英し、26歳で渡米。ロサンゼルスの音楽大学、ミュージシャンズ・インスティチュート(MI)に留学。卒業後、同校で新学科の初代学科長を務める。2006年に帰国し、ソフトバンクアカデミア社外1期生、MI Japan校長などを経て2015年から現職。
「木のギター」を残すためにできること

最近、物価の上昇を実感する場面が多々あるが、値上がりしているのは食料品や電気料金、ガソリンなど、いわゆる生活必需品だけではないようだ。たとえば、バイオリンやギターをはじめとする弦楽器もそう。米国・カリフォルニア州に拠点を置き、米国内でトップシェアを誇るギターメーカー、Taylor Guitars(以下、テイラー)のプロダクト・スペシャリストである虎岩正樹さんは、「あくまでも個人的な感覚」と前置きしつつ、その要因を次のように推測する。
「ギターの値上がりはパンデミック以降、より顕著になってきたと思うのですが、大きな理由のひとつに、楽器に使用する木材などの資源が高騰していることがあると思います。コロナ禍で船の行き来が滞ったり、流通そのもののコストが上がったことは、楽器業界のみならず、価格の高騰につながっているといえるでしょう。ほかにも人件費の上昇や、日本国内に関していえば円安の影響も考えられます」
こうした要因に加えて、楽器に使用する木材そのものが減少しつつあることも、価格に大きな影響を及ぼしている。虎岩氏は、アコースティックギターを例にとって、楽器の木材事情を説明する。
「アコースティックギターに使われる木材としてポピュラーな、ローズウッドやマホガニーといった木材は、数十年ほど前であれば、多くの人が“無限に存在するような資源”という感覚を持っていたと思います。しかしローズウッドは、伐採によって年々数が減少し、とうとう2017年にはワシントン条約で輸出入の規制がかかってしまい、当時は私たちテイラーも含め、各楽器メーカーがローズウッドに代わる木材を模索することになりました」
(ローズウッドにかかわる全産業の中で楽器に使われているローズウッドはごくわずかであったため、完成品の楽器に関しては、2019年に規制解除に)
TALKS with
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テイラーの虎岩さんには、記事の公開後にTALKS withのゲストにも来ていただきました。資本主義ど真ん中のアメリカの企業が、サステナビリティにコミットできているのは、儲かるという裏付けがあるからこそ。まさに社会性と経済性のトレードオンがベースにあるお話だと感じました。持続可能な社会を実現するために何ができるのか、今までの常識を一回取っ払って、身近なところから見直す。そこから、使えないと思われていた素材を技術で使えるものに昇華させることにもつながるし、消費者の意識を変革して新たな価値をつくり出すようなブランディング戦略にもつながっていく……メーカーで宣伝に携わる身として、大変参考になるお話ばかりでした。
森岡玲永子
三菱電機 宣伝部